Ranne   -warp flower-


アオイ=イトスギ。――彼女の種族は魔力で生成した糸を操る『絡新婦』である。

絡新婦は魔力によって糸を生成する魔法を使う種族で、その魔法の糸は魔力供給によって伸縮の変化と強度を増す性質を持っている。

特に対象の拘束などに高い効果を示す魔法だが、拘束だけでなく絡めた糸に魔力を流し込み、容易には解除不能な強力な締め上げによって対象を殺害する事もできる必殺の魔法でもある。

魔法の性質上から、絡新婦は古くから暗殺者として空想皇国に使える種族だった。

アオイの両親はその魔法を生かし、表向きは糸を使った人形芝居を営み、裏では空想皇国の暗殺業務に携わっていた。

幼少期よりアオイは身体が弱く、特に幼い頃は少しの運動でも簡単に体調を崩してしまうほど病弱な体質であり、また魔力量も同じ絡新婦から見ても少なかったため、暗殺者として育てられる事はなかった。

――だが、彼女には魔力量とは別に、魔力操作に置いて秀でた才能を持っていた。

幼い頃のアオイは床の上での日々が多く、両親が仕事で使っている人形を借りて一人で遊ぶ事が多かった。

幸か不幸か。――気がつけばアオイは両親ですらできない、複雑な人形の操作を同時に複数行えるほど、突出した魔力制御を行えるようになっていたのである。

成長したアオイは、やはり直接的な暗殺業務を継ぐ事はなかったが、稼業の兼ね合いもあって、必然的に空想皇国の軍部へその身を置くことになる。

元々の操り人形の操作は、人形の関節部に繋がった糸を伸縮させる事で自在に操るもので、外部から直接人形を動かすものであった。

当然、人形を自在に操れると言っても、術者となるアオイが傍にいる事が前提であり、また魔力量の少ないアオイの生み出す糸は比較的簡単に切断する事ができ、断ち切られればそれまでであったため、直接的な兵力としてではなく、彼女の魔法を人形の中に埋め込んで使用するという形で、アオイは研究者として軍部に所属する事になる。

繰り返しの話となるが空想皇国では人員不足による戦力低下、延いては国力自体の低下が問題になっていた。

術式技術が盛んであった空想皇国では、人員の不足を術式による兵器によって補うべく、多くの研究者達によって複数のテーマで研究と実験が行われている。

アオイは、そんな複数ある研究テーマの1つ。――疲弊をしない戦闘兵を生み出す『特殊強化戦闘兵製造計画』部門に参加する事になった。

『特殊強化戦闘兵製造計画』――は戦場や戦争において避けては通れない課題である、兵士の疲労や補給面などを改革する事をテーマに研究を行っている部門で、主に補給をしないで長時間戦闘を続けられる兵士や兵器の開発が行われていた。

アオイは、初めは自立行動式の人形、いわゆるゴーレムを作成する試みを行っていたが、自立思考する制御系の用意ができず、計画は早い段階で頓挫した。

次にアオイの研究は、生物に直接魔法を埋め込み、埋め込んだ生物の魔力を使って糸を制御して身体能力などの向上を図る研究へと進んでいく。

動物実験や人体実験を行ったが――。しかし、生きている被験体の場合は埋め込んだ魔法と身体が拒絶反応を起こし、魔法を埋め込んだ部位が破損したり、最悪の場合は被験体が絶命する結果となってしまう。

もちろん死体での実験も行われたがその場合は人形に魔法を埋め込む事となんら変わりなく、実験は困難を極めていた。

そして、新しい試みとして行われたのがトウゴウとの合同研究。――そして一丸三式の暴走事故が起きた。

親友であったヒガレを代償に、アオイはキョンシー化の成功という成果を得たのである。

心肺停止直後で脳細胞の壊死する前の肉体に、アオイの魔力の糸を埋め込む事で、アオイの魔法や魔力と相性の良い素体に限り、アオイの魔力の糸に拒絶反応を起こさない事が解ったのだ。

これは生命活動がある場合は、他人の魔法や魔力を異物として、脳や心臓などが拒絶をする事で、今までの拒絶反応が起こっていたと考えられる。

拒絶反応がなければ、後はアオイの糸で心臓などの臓器の代役を担う器官を用意し、他にも全身くまなく糸を張り巡らせる事で筋力や身体能力の向上を図る事ができる。

魔力の糸は、素体の持つ魔力を使い維持する事ができ、魔力量の調節で一時的に大幅な筋力の底上げしたり、防御面でも皮膚の下に埋め込まれて糸が防護の役目を果たす。

人形では成しえなかった制御系や命令に伴う自立思考能力も壊死前の脳を使用する事で、ある程度自立した行動や判断を行え、課題となっていた問題を全て解決したのである。

そして試験運用として行われた一丸三式の討伐も十分な成果を示した事により、アオイの研究は十分すぎる成果を得た。

こうして、アオイの研究は最終段階へと進む――。キョンシー達への実践への投入、つまり戦争への本格参加が決定したのだ。

キョンシー達で構成された『特殊強化戦闘部隊 歪の華』の結成とその局長へ、アオイ=イトスギは就任する事となった。

少数精鋭の特務部隊としての運用を期待される歪の華は、大々的な設立の発表などは行われず、任命や実働開始の命令は書類上だけのものだったが、上層部での歪の華への期待はとても高いものであった。

要因としては、キョンシー化の成功が、他の開発部門の技術を実用段階へ底上げ、結果として複数の成果を達成したからだ。

1つ目は歪の華のキョンシー達は、『術式兵器開発』部門からも協力を得ており、それぞれに専用の武器を与えられている事だ。

試作実験品であったり、製造コストが高すぎるため量産ができなかった品などで、標準装備として採用されなかった武器などだが、少人数で、特殊性と能力の高いキョンシー達には非常に相性がよかった。

そして2つ目がトウゴウによって回収された一丸三式――、彼やその他の研究者により分析が行われ、研究の成果がキョンシー達に組み込まれたのだ。

『式』――そう呼ばれる技術。それは制御のできない怪物をわざわざ制御するのではなく、制御不能を前提として、敵戦力の中心へ送り込む一種の爆弾として運用を想定して作り出される怪物である。

初めから制御が必要ないのであれば、今まで制御や長期の運用のために基準値以内に納めなければいけなかったあらゆる制限や規制を度外視した、最高基準の技術を注ぎ込む事ができる。

また、敵戦力に一定の損害、または壊滅が完了した際には、友軍に被害を与えないために停止措置――いわゆる自壊をさせる必要もあるが、逆に目標へ一定の損害を与えらるのであればどんな損傷を受けても問題がなく、例えば自身のあまりある力で身体へ損傷が発生するような場合でも許容が可能なのである。

本来であれば、そもそも制御できない怪物を敵勢力の中心へ送り込む事が不可能なため、構想にすら上がらないはずの技術であったが、歪の華のキョンシー達はその式を生成――生み出す能力を与えられたのだ。

少数で標的地点へ侵入して、最大限の効果を発揮できる場所で式を生成。後は式が暴れまわり敵勢力へ大きな損害を与える事ができるというものだ。

こうして結果として術式技術の粋が詰め込まれて完成した歪の華は、国の上層部や各研究部門からその成果への期待と高い関心を集めているのであった。

そして、一丸三式の討伐より半年を経た今日――。

3人1組の編成で『妃枯』『輝氣』『閃火』と新しくキョンシー化に成功した素体となる『翠漸』『絢覚』『譚里』の2組にて、敵拠点への侵入とその破壊を目標とした作戦が実行されようとしていた。