Lilityth   -past memory-


「――なんだ……あれ?」

その日は、薄っすらと月の光が雲の向う側に見える、薄暗い夜でした。

領主アルヴェフラン邸――その周囲を囲む壁に作られた物見台で、夜間の警備をしていた兵士の彼は、暗闇の先で何かが動いているような気配を感じ取りました。

しかし、暗いためにその気配の正体をつかめない彼は、じっとその方向に意識を集中していると、隠れていた月が顔を出し、すっと辺りを照らし出しました。

「――て、敵襲か!?」

「おいっ、報告しっ――ぐッ!?」

見張りをしていた彼の言葉が突然に遮られます。

「お……おま……え、何を……?」

深々と彼の背中に刺さった剣。それはあろうことか、隣で同じく見張り番をしていた”仲間”から刺された物だったのです。

「どうなっている!?」

状況は混乱し、アルヴェフラン邸内は騒然としていました。

「仲間の中に十数人ものスパイが入り込んでいたようで、不意打ちで何人もの犠牲者が出ている上、さらに別勢力が外側からも侵入してきています!」

「そんなにもスパイが入り込んでただと!? ふざけやがってっ!」

私の周りの大人達が慌しく駆けていきます。

「――お嬢っ!」

色々な言葉が飛び交う中、私は声を掛けられました。

声の聞こえた方に振り向くと、見慣れた二人の男の人がそこに立っていました。

「ベストル、クラハド――どうしたの?」

私に声を掛けてきた二人の男の人。

大柄の竜族の人がベストル。

頭に角のある鬼族の人はクラハド。

二人とも私の面倒をよくみてくれます。

「ここは危険です、とにかく私に付いて来て下さい」

そう言って、ベストルが私の手を掴んだ時でした。

「――おっと何処に行くんだい?」

今度は聞きなれない声が私の後ろから聞こえ、声のした方を見ると、見知らぬ男がそこに立っていました。

「――敵!?」

敵の姿を確認して、ベストルは私を隠すように自分の体で私の姿を敵から遮ります。

「もうこんな所まで!」

クラハドが私たちと敵の間に立ちました。

「……ベストル――ここは俺に任せて、お前はお嬢をっ!」

「すまん、先に行く」

ベストルの大きな手に引かれ、彼と共に私は走り出しました。

「……さて侵入者さん、ここから先へは進めないぜ」

クラハドがそう言った直後――辺りに金属がぶつかる音が響きわたりました。