Eltofeena   -lost queen-


その日のスケジュールを全て終え、エルトフィーナは自室に戻っていた。

彼女が向かう机の上には、数枚の紙が広げられている。仕事から解放され、普通ならばこの時間は私的なものとして使われるのであろう。

しかし、彼女はその時間を部下からの書類確認の時間に割いていた。

もちろん、これは今日だけの事ではなく、エルトフィーナが昔からずっと続けていることだ。書類の確認は就寝直前まで続けられる――むしろ書類の確認が終わると就寝するのである……そうやって彼女は現在の国の状況を毎日欠かさずに確認しているのだ。

それともう一つ――書類とにらみ合う以外に、この時間にする日課と呼べるものが彼女にはあった。

「――失礼します、陛下」

部屋のドアをノックして一人の女性が中に入ってきた。

髪の毛の大半は白髪の白色に染まり、女中としては少々歳を取り過ぎている印象を受ける女性だった。

しかし、気品と落ち着きがあり、女中としての経験の長さが見て窺える。それもそのはずで、彼女はエルトが皇帝になった頃から仕える古株の女中だった。

「紅茶をお持ちしました」

彼女、ローザ=スフェアリイは紅茶を載せたティーワゴンを押して入ってきた。

ローザは、そのままエルトフィーナの座る机の横にワゴンを止め、机の上に紅茶を置く。

「陛下、お早めに就寝してくださいね」

いつも通りに掛けられるローザの言葉に「ああ」とだけ答えるエルトフィーナ。

ローザもその返事を聞くと、一礼してドアへ向かう――これが彼女達の日課である。

特に会話が行われるわけでもない――ただ、ローザがエルトフィーナに紅茶を持ってくるだけだ。

そもそも紅茶を持ってくるのはローザが勝手に始めた事だった。

紅茶など用意する必要性もないのだが、毎日必ずローザは紅茶を持ってくる――そして、一言二言の言葉を掛けてくる。それに返事を返して終わるだけだ。

他人との交流を求めないエルトフィーナにとって、この行為はまったく意味のないものだった。

――よく彼女も飽きないものだとエルトフィーナは考える。

「おやすみなさい」

いつも通り、最後にそう言ってローザは部屋から出て行った。

……一人になり静かになった部屋では、ただ紙を捲る音だけが響く。