Eltofeena -lost queen-
それはエルトフィーナが料理や掃除の方法を一通り教わった頃だった。
ローザの部屋に掃除の道具を取りに向かったエルトフィーナは、ローザのベットの横に飾られた一枚の写真に目が行った。
そこには頭にオレンジのバンダナを巻いた、白い服の少女が写っていた――どことなくローザに似ている気がする――おそらくこの少女がローザの話していた彼女の娘なのだろう。
エルトフィーナが写真を見ていると、突然キッチンの方から食器の割れるような音が響いた――彼女は気になって、キッチンに向かうと……そこには、床に倒れたローザの姿があった。
エルトフィーナはその光景を見て――何か寒気のようなものを感じた気がした。

エルトフィーナはローザの元に駆け寄る。
「しっかりしろローザ!」
エルトフィーナがローザの名前を何度も呼ぶが返事はない――息はあるので、意識を失っているだけのようだが、医学の知識があるわけではないエルトフィーナは何をしていいか分からなかった。
――とりあえず、ローザをベットに寝かせ、エルトフィーナは医者を連れてくるために家の外に出た。
幻想帝國から亡命して以来の外の世界――本来ならば、外に出るべきではないはずなのに、エルトフィーナはその事を考えもしなかった――とにかくローザを助けなければ、ただそれだけが頭の中を駆け巡り、田舎町エリュシーナの中を走った。
……それから小一時間後――どうにか近くの家の住人に医者を紹介してもらい、ローザの容体を見てもらう事ができた。
過労から来る疲れに流行病が重なって倒れたそうだ。
……無理も無い事だった――ローザはエルトフィーナの身の回りの世話をして、さらに生活費などの工面も彼女が行っていたのだ。
いつも変わらない様子で、尽くしてくれる彼女に、エルトフィーナは気づかないうちに甘えてしまっていた。
……これからは少しでもローザに楽をさせてやりたい、そう思うエルトフィーナがいた。
日頃の感謝とかそういった返せば終わってしまうものではなく、ローザを大切に思うというだけの無償の感情――エルトフィーナはまだ気づいていない。自分が持ち合わせていないと思っている物に動かされている事に――それに気づくことができれば彼女は変われるかもしれない。
しかし、鍵となるローザの病だが、問題なのはこの流行病の死亡率が決して低くない事……そして特効薬が無い事である。
無理をした身体にこの病だ……ローザの年齢の事を考えるとさらに危険である。
……このままではローザに甘えたすぎてしまった事を改める事さえできないではないか。
「陛下、申し訳ありません……」
エルトフィーナはハッとして、ローザの顔を見る――彼女はベッドに身体を預けたまま、顔だけを動かしてエルトフィーナの方を見ていた。
「――お前が謝る必要などない、私がお前に無理をさせ過ぎたのだ……だから謝るのは私の方だ」
ローザに謝罪できた事にエルトフィーナは少し安堵していた――目を覚ましてくれて本当によかった。
「陛下に謝っていただく……など、滅相も御座いません……」
しかし、ローザはエルトフィーナの謝罪を否定する。
「陛下の身の回りの……お世話は……私が好きでやっている事なのです……ですから」
「もうよい、喋るな!」
掠れた声でさらに続けようとするローザに耐えかねてエルトフィーナはローザの言葉を遮った。
「今はゆっくり休んでくれ――私の為にも」
「遅れたが、目を覚ましてくれて安心したぞローザ……」
ローザが意識を取り戻し、一安心できたような気がしたが……状況は何も改善されていないのだ――だからこそ、ここからが本番なのだとエルトフィーナは覚悟した。
ローザをベットで休ませ、エルトフィーナは彼女から教わった家事を始めた。
まだまだ手探りな状態でローザの食事を用意する数日が続く……。
しかし、彼女の体調が良くなる事はなかった。