Eltofeena -lost queen-
青々とした木々が生い茂り、人工物よりも自然が溢れる――穏やかで、のどかな町。
ここは妄想王国の領土内にある田舎町エリュシーナ――特産品や名物も持たないような特徴のない町であり、人が暮らす家々さえも隣り合う建物までの距離は、数十メートルはあるような人口の少ない町である。
幻想帝國から亡命したエルトフィーナとローザの二人は、人の出入りが少ない――そんな静かな町に身を置いていた……エルトフィーナを皇帝としていた幻想帝國が崩壊して、あれから3ヶ月が経とうとしていた頃だった。
表向きの公式発表ではエルトフィーナは殺されたという事で落ち着いている。
現在、幻想帝国を管理する革命軍は、女王の亡骸を掲げ、自分達が女王を討ち取ったとしている。
実際には、こうして他国へ逃げ延び、生きているわけなのだが、エルトフィーナが今も存命している事実を知るのは、ほんの一握りの者のみで、その一握りの者も彼女の所在は知らされていない。
こうして妄想王国の田舎町に身を潜めている事まで知っているのは、エルトフィーナ本人と彼女をこの町に連れてきたローザのみである。
外部と連絡を一切取り合っていない現在――エルトフィーナが知ることのできるのは、庶民が知りえる程度の噂話でしかなく――つまりエルトフィーナの亡骸がどういう経緯で用意されたものなのか判断ができていない。
革命軍が用意したものならば、女王を自分達が討ち取ったと公言する事で、自分達は女王を倒せるだけの力を持っていると示すため――エルトフィーナを支持する者が用意したのならば、亡命を確実な物にするためとなる。
前者であった場合、革命軍は裏で血眼になってエルトフィーナを捜索している事になるため、他国に亡命しているとはいえ、油断はできない……革命軍にとって、女王が生きているとなれば、女王支持派との再びの動乱も必至であるからだ。
エルトフィーナとしては、再び女王の地位に戻るつもりはないのだが、そう説明した所で見逃してはもらえない。

亡命してこの町に来て以来、エルトフィーナはほとんど外出をしていない。
食材の調達や町の者とのコミュニケーションはローザが全て行い、近隣の住民には病弱な娘を持つ母親という事で話を通している。
この町にやってきたのも、空気の良い場所で療養するためという事になっている。
内乱とほぼ同じタイミングで越してきたという理由から居場所を特定される可能性もあるが、革命軍による幻想帝國の内乱の影響で、幻想帝國から移動してきた者は多いらしい。
表向きには女王が死んだ事になっているため、強引に探索できない――もし発見した場合でも、一騎当千であるエルトフィーナという怪物を相手にしなければならないリスクまで持つのだから、活発に動かない限り、エルトフィーナが発見される可能性はかなり低い。
ただ、当然外出を控えるとなれば、エルトフィーナは屋内で時間を過ごすしかないわけだが――女王としてのみの人生を生きてきた彼女には、趣味と呼べるものもなく、この家にある本を読む事で時間を潰している。
――幸い、読書をする事はエルトフィーナに足りないものを知識として保管する事ができるため、無駄になる事ではないのだが、しかし……。
「……ほとんど読み終えてしまったな」
この屋敷には、それなりの数の本が置かれていたのだが、それでも3ヶ月という時間は長く、エルトフィーナはそのほとんどを読み終えてしまった。まだ、一部読み終えていない本もあるが、そのほとんどは調理だったり辞書だったりと、読書として読む対象には難しいものだ――残る普通の書籍を含めても、読むものがなくなるまで差ほど日数は掛らないだろう。
「――何か読書以外にできる事を探さなければいけないな」
そう呟くエルトフィーナの言葉を聞き、エルトフィーナの横に座っていたローザは一つの提案をする。
「――陛下、それでしたら料理や家事をされてみませんか?」
そのローザの提案は、つい先日まで一国の女王だったエルトフィーナに持ちかけるにしては、とんでもない内容だった。